子育てや仕事に追われる毎日。ふと立ち止まって「老後のこと」や「将来の生活費」について考える瞬間はありませんか?
最近よく耳にする「FIRE」や「4%ルール」は、なるべく早く資産を築いて、経済的自由を手に入れようというライフスタイル。でも実は、その4%ルールにはあまり知られていないリスクがあるのです。
その名も「シークエンス・オブ・リターン・リスク(Sequence of Return Risk)」。
簡単に言えば、“リターンの順番”によって、将来の資産寿命が大きく変わってしまうリスクです。
【たとえ話】りんご農家さんの出荷とお金の話
想像してみてください。あなたはりんご農家。10年間、毎年同じ量を収穫しています。
現在、りんごを1,000個持っています。
これが「老後の資産」=貯金や投資のお金だと考えてください。
農家さんは、毎年りんごを30個、40個、50個ずつ市場に出荷して売って暮らしていくことにしました。
でも──、問題は「天気(市場の調子)」です!
☀️ パターン①:毎年お天気がちょうど良い(=安定成長)
- 毎年そこそこ豊作。
- 出荷した分くらい、畑で新しいりんごも育つ!
🟢30個ずつ出荷 → りんごはどんどん増えて、20年後には1,300個近くに!
🟡40個ずつ出荷 → 出荷と育ちがちょうど同じくらい。20年後もぴったり1,000個。
🔴50個ずつ出荷 → 少し足りないけど、700個は残ってる。
🌞⛅ パターン②:最初に豊作が続いた(=初期に好景気)
- 最初の3年はスーパー豊作!大量にりんごが育った!
- だから少しくらい天気が悪くても余裕がある。
🟢30個ずつ出荷 → 20年後には1,060個くらい残ってる!
🟡40個ずつ出荷 → 少し減るけど800個以上残ってる。
🔴50個ずつ出荷 → まあまあ減ったけど600個以上残る。
⛈️ パターン③:最初に大雨・台風が続いた(=初期に不景気)
- 最初の3年間は大雨でりんごが全然育たなかった…
- それでも出荷しないと生活できない。
- 減った分を取り戻すのは大変!
🟢30個ずつ出荷 → 20年後には半分以下の500個ちょっとに。
🟡40個ずつ出荷 → 800個あったはずが200個ちょっとしか残らない…
🔴50個ずつ出荷 → 14年目でりんごが全部なくなっちゃった!
このお話で分かるのは、「最初の数年がとても大事」
りんごの育ち具合(市場のリターン)は、毎年バラバラ。
特にリタイア直後の数年に「台風(不景気)」がくると、出荷(お金の引き出し)とのバランスが崩れて、全部なくなっちゃうことも。
これが実際のお金の話であれば、リタイアメント世代の場合、「取り崩しのタイミング」が悪いと老後資金が不足するということになるのです。。。
同じ運用でも「減り方」が変わる?その仕組み
このシークエンス・オブ・リターン・リスク(Sequence of Return Risk)は、リタイア後に資産を「取り崩しながら」生活する人すべてに関わるものです。
先ほどは、「りんごの出荷」でしたが、ここからは「実際のお金」で見てみましょう
下の表は、$100,000を元手に、毎年一定額を取り崩して生活した場合のシミュレーションです。リターンの“並び順”によって、最終的な残高がこれだけ変わってきます。

| 年間取り崩し額 | 毎年+4%(安定成長) | 初期に好景気 | 初期に不景気 |
|---|---|---|---|
| $3,000 | $129,778(増加) | $106,818(増加) | $54,204(減少) |
| $4,000 | $100,000(維持) | $83,963(微増) | $22,310(大幅減) |
| $5,000 | $70,222(減少) | $61,108(減少) | $0(14年で枯渇) |
※ キャピタルゲインのみ。配当や利息などは含まないシンプルな想定です。
同じ平均利回りでも、「いつ儲かって、いつ損するか」で資産の持ち具合は大きく変わるのがポイントです。
図で見る「リタイアタイミング」のインパクト
他にも、U.S. Bankが公開している以下のシミュレーションも非常に分かりやすいものです。
この図は、どちらも$1,000,000の資産を持ち、毎年$45,000(3%ずつインフレ調整)を取り崩して生活した2人の投資家の比較です。
引用:https://www.usbank.com/retirement-planning/financial-perspectives/sequence-of-returns-risk-impact-when-to-retire.html

🔵 青のライン:好調な相場でリタイア
- 最初の3年間で資産が大きく増え、資産寿命はなんと40年。
- 「リタイア直後に資産が育つ」と、取り崩しながらでも余裕が生まれます。
🔴 赤のライン:不景気の中でリタイア
- 退職してすぐに市場が下落したことで大きな損失。
- 同じ取り崩しをしていても、25年で資産が底をついてしまいました。
平均リターンは同じでも、「いつ下がるか」によって資産が持つ年数に15年もの差が出るんですね!
シークエンス・オブ・リターン・リスクにどう備える?現実的な3つの対策
「現金」を持っておく
市場が不安定なときでも慌てて資産を取り崩さなくて済むよう、生活費1〜3年分を“生活防衛資金”として確保しておきましょう。
預金、Money Market Fund、短期債券など、すぐに使える形で。
“バケツ戦略”で資産を3つに分散して管理する
U.S. Bankでは、「リタイアメント・バケツ戦略」という資産分散を推奨しています。
| バケツ | 中身 | 目的・ヒント |
|---|---|---|
| Bucket 1: 10〜5年 | 現金・MMF・短期債券 | 「生活費の“守りの要」…突然の医療費や教育費に即対応できる |
| Bucket 2: 25〜10年 | 債券多めの投資信託、Traditional IRA、401(k),IUL (インデックス連動型生命保険) | 中期の目標資金+IULのキャッシュバリューで“貯蓄と保障”を両取り |
| Bucket 3: 10年以上 | 株式ETFや成長ファンド、Roth IRA、課税ブローカレッジ、生涯収入型個人年金(Annuity) | 将来の夢を叶える資産を育てながら、生涯年金で“ずっと続く生活費の土台”をつくる |
これにより、市場の上下に左右されずにお金を取り崩せる仕組みが整います。
保険を活用した「減らない収入源」も選択肢に
アメリカの保険は、保険=プロテクションだけで終わらない保険商品もあります。
セミナーでもお伝えしていますが、この2つが景気が不透明な現在、とても人気があります。
◉ 年金型保険(Annuity)生涯収入型
- 積立後は毎月“給料のように”受け取れる
- 市場が不調でも収入が途切れない
- 長生きをすればするだけ、累計で生涯収入を受け取れる
◉ IUL(インデックス連動型終身保険)
- 資産形成と保障を兼ねた保険
- 必要なときに非課税で資金を引き出せる柔軟さも魅力
将来のためにコツコツ積み立ててきた資産も、取り崩し方を間違えれば、思ったより早く底をついてしまう——それが、リタイアメントにひそむ“見えにくいリスク”です。
けれども、現金で生活防衛資金を確保し、資産をバケツごとに分けて管理し、さらに保険を活用して「減らない収入源」をつくることで、不安定な相場の中でも安心して暮らし続けられる土台ができます。
大切なのは、「どれだけ増やせるか」ではなく、「どうすれば安心して取り崩せるか」。
そんな視点を持つことが、これからの時代の安心につながります。
まとめ|将来の安心は「増やす力」より「守る仕組み」でつくる
りんご農家は“天候”を選べません。
私たちも“市場のタイミング”を選ぶことはできません。
でも——お金の置き場所と守り方は、自分で選べるんです。
リタイア後の資産運用は、「どれだけ持っているか」以上に「どう取り崩していくか」が、将来の安心を大きく左右します。
だからこそ、私たちは…
- 📌 市場が不安定なときも暮らしていけるようにする
- 📌 資産を取り崩す順番を間違わない
- 📌 長生き時代にも備える
この3つを意識して、減らないお金の使い方”を考えていくことが大切です。